万華鏡の魅力

−偶然と必然−

小林 裕

 

 知り合いに万華鏡作家がいて昨冬、作品展を開いた。私たち夫婦にも案内状が届き、日曜日の昼下がり、銀座の松屋に出かけた。旧知の仲間がどんな作品を創っているのだろうかと心をはずませて会場に向かった。万華鏡はおしゃれで立派な芸術品で、どれもが美しかった。

形も違えば色もさまざまな何十個という万華鏡が並んでいた。子供の頃遊んだおもちゃの万華鏡しか知らなかった私は、ほとんどすべての作品を手に取って感触を味わったり工芸品としての外観に見入ったり、初めて出会う本物の万華鏡の魅力にすっかり虜になってしまった。万華鏡の中に広がる幾何学模様を作り出す構造や中に入れる材料にも幾重のアイデアが織り込まれているし、作品のテーマやデザインとの関係には哲学的な背景さえ感じる。実際に万華鏡の中を覗くとそれぞれ個性を持っていて、優美なもの、繊細なもの、輝かしいものと、どれもが唯一無二の存在感を示している。作家の思いから生まれるのであろう必然的存在と、幾何学模様の千変万化といえる偶然的存在の統合が万華鏡の不思議で魅力的な世界を形作っているように思えた。

私は夢中になっていくつもの万華鏡を覗き込んだ。作品を軽く揺らして幾何学模様を変えたり、万華鏡に明かりを差し込んで模様の光と影を楽しんだり、子供の心にかえって万華鏡の世界に見入った。万華鏡に入る光の具合で同じ模様でも色彩が微妙に変化する。光と影が織りなす芸術に心を奪われる。何度か模様を変えて遊んでいるうちに二度と同じ模様を見ることができないことを感覚的に理解し受け入れる。それが分かっているから気に入った模様が見えたときは、しばらくそのままにしておきたい気持ちになる。しかし、もっと美しい模様にめぐり会いたい一心で万華鏡をさらに揺らしたいという期待感を抑えきれない。さっきの方が綺麗に思えたり、今見ている方が美しいと思ったり、自分の心も万華鏡のように変化していることに気づく。

いまの自分も変化する環境のすべてを受け入れて生きているのだと気づけば、万華鏡の世界と通じるところがあるように思える。自分ひとりではどうすることもできない外部の変化を取り入れて自分の内部にある個と統合させ新しい人生模様に発展させる毎日の変化をわくわくした気持ちで楽しむことができれば、芸術作品としての万華鏡と同じように美しいのではないかと思う。また、偶然と思える外部の変化が、実は自分も関係しながら創り出しているのだと思うと、人生は偶然と必然が統合した魅力的な万華鏡の世界そのものではないかと思う。